鈴木ヒラク「文字の部屋」
アクリル絵の具 マーカー ロール紙 縦 1100cm×横 661cm × 高さ 510cmの教室の壁4面
かつてインドを放浪した経験を持っていた鈴木ヒラクだが、それでも、到着した直後の制作は“自分を壊す作業だった”と言う。朝食をみんなでいっしょに食べて、出かけて、そして夜になったら、またみんなとご飯をいっしょに食べていっしょに眠る。そんな生活の中だからこそ、生まれた作品だったとも。長さ30mのロール紙を数本抱え、学校裏の田んぼを皮切りに、夕日のアラビア海へ、聖山「マハ・ラクシュミ」へ、川縁へ、森へとでかけてはライブドローイングを重ねた。ボランティアを数人だけ引き連れた時もあれば、ロール紙の周りにわんさか子どもたちが押し寄せた時もあった。「僕にとっては毎日が冒険でした」そんなふうに彼は、不便で愉快な滞在制作を楽しんだ。
私たち人間は、自分以外の何かをつながるあめに、文字や言葉を獲得してきた。ふと目に入った木の姿、山の稜線、雲の形、木漏れ日のダンス、ときにはそこにある音。文字の成り立ちを見てもわかるように、いまそこで感じたことを形にして表現するドローイングは、人間の根源的な欲求にほかならない。そんなドローイングを描いてきた鈴木ヒラクが、教室の壁全面に描いた文字になる前の文字たち。圧巻であった。そして、ワルリ画という、象形文字にも似たシンプルな壁画の文化を持つ村人たちは、すんなりとヒラク作品を受け入れた。この教室で勉強する子どもたちは、この空間で何を感じているのか。理屈ではなく、完成した絵を見た彼らが、言葉になる前の言葉で囁き合う声が聞こえてくるようだ。
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