加茂昂「まなざしを手向ける」
油彩
縦 780cm×横 650cm × 高さ 300cmの教室の壁4面
高いものの対比として一面には山、隣の面にはビルを描いた。描かれた雪山は自然のものだが、実は人間が1時間も生きられない環境だ。逆に人工物のビルの方は窓の光が揺らめき、都会のゆりかごのようでもある。空の青に対比して赤を配置した。同じ赤でも夕焼けもあればもみじもある。祭りの火のように喜びの赤もあれば、人を傷つける武器となる火もある。この世界を注意してみること。真実を見つけること。そんな画家としての思慮深いまなざしを、子どもたちへ差し出す、そんな手向けの意思が作品に込められている。
このプロジェクトは、アートを媒介とした支援をコンセプトの一つに掲げている。その成果は数値化しずらく、結果がすぐに出ないこともあり、支援という言葉尻に悩むこともある。だが今回、加茂昂がその答えのひとつを提示してくれたように思う。
フェスティバルまであと1週間という日、最後の壁面に何が描かれるのか、みんなが固唾を飲んで見守っていた。「せっかくだから、これまでと違うことをしたい。成功するかしないか、まったくの賭けだけれど」と淡い色調で描き始めたのは、学校の脇を流れる川の風景。この世界が朝の光できらきらと輝き始める瞬間だった。寄宿学校の生徒たちは小さくても親元を離れ、この川で体を洗い、洗濯をする。そんないつもの皮は、ある瞬間、世界で一番うつくしい場所に変貌するのだ。そのことに思い至ったとき、もう、この絵が子どもたちの心にどう届くかなんて、考えなくてもいいんだと思えた。
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